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津地方裁判所 昭和58年(行ウ)7号 判決 1985年12月26日

原告 山本勝

被告 阿山町長

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告が原告に対してなした昭和五八年四月一五日付昭和五八年度固定資産税賦課決定を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  被告は、原告所有にかかる別紙物件目録(一)記載の土地及び同(二)記載の家屋に対して賦課する昭和五八年度の固定資産税額を一二万八七五〇円と決定し、昭和五八年四月二〇日頃原告に到達した昭和五八年四月一五日付昭和五八年度固定資産税納税通知書により右賦課決定(以下、本件賦課決定という)を原告に通知した。

2  しかし、本件賦課決定には以下に述べる違法があるから取消されるべきである。

(一) 固定資産課税台帳の縦覧制限の違法

原告は、昭和五八年三月、固定資産課税台帳の縦覧期間内に所定の場所に赴き、被告に対し固定資産課税台帳の縦覧を求めたところ、被告の命を受けた阿山町職員は備付の固定資産課税台帳中の原告所有物件に関する部分のみを抜取り原告に示したので、原告はこれでは閲覧であり地方税法(以下、地方税法を単に「法」という)四一五条にいう縦覧とはいえないから他人所有物件に関する部分をも縦覧させるよう求めたが、右職員は他人所有物件についての固定資産課税台帳を縦覧させた場合は法二二条の秘密漏えいに関する罪に該当するので出来ない旨主張してゆずらず、その部分の縦覧を拒否し、結局原告は縦覧を制限された。

しかし、法四一五条の縦覧の制度は、固定資産課税台帳登録の価格(評価額)が公平妥当なものであるか否かを検討する判断資料を納税者に提供し、評価額が適正でない場合には固定資産評価審査委員会に審査の申出をして救済を受ける機会を納税者に与えるためのものであつて、納税者たる原告は、他人所有物件についての固定資産課税台帳の縦覧を拒否されると、自己所有物件の固定資産課税台帳登録価格(評価額)が公平・妥当か否かを他人所有物件のそれと比較検討する途を塞がれることになり、その結果、固定資産課税台帳登録事項に関する不服申立を処理するために設置された固定資産評価審査委員会に対し不服申立(審査の申出)をすることを実質上不可能とさせられ、固定資産評価審査委員会の制度は有名無実のものとなつてしまうから不当である。したがつて、被告が法四一五条に従い固定資産課税台帳を関係者の縦覧に供したといい得るためには、原告所有物件についての固定資産課税台帳のほか、少なくとも原告所有物件の固定資産評価額の妥当性を検討するに必要な範囲内において、他人所有物件についての固定資産課税台帳を原告に縦覧させなければならないというべきであるから、結局被告は原告の要求した法四一五条所定の縦覧を違法に制限したものである。そして、右違法は重大である。

なお、被告は法二二条及び地方公務員法三四条所定の秘密保持義務を根拠に他人所有物件の固定資産課税台帳を縦覧させることはできない旨主張するが、被告が法四一五条によつて縦覧の義務を課せられている以上、同条に基づき原告にそれらを縦覧させた所為が右守秘義務違反を構成するとは考えられない。また、法三四一条九号は、固定資産課税台帳とは、土地課税台帳、土地補充課税台帳、家屋課税台帳、家屋補充課税台帳及び償却資産課税台帳を総称する旨明記し、この固定資産課税台帳が法四一五条により縦覧に供されるのであるから、同条により関係者の縦覧に供されるべき固定資産課税台帳は当該納税者所有物件にかかる分のみに限定されないことは明らかである。

(二) 法四〇八条所定の実地調査不実施の違法

法四〇八条は、「市町村長は、固定資産評価員又は固定資産評価補助員に当該市町村所在の固定資産の状況を毎年少なくとも一回実地に調査させなければならない。」と規定しているにもかかわらず、被告は同条に定められた実地調査を永年実施していない違法がある。

(三) 適法な固定資産課税台帳を縦覧に供しなかつた違法

被告が法四一五条に従つて関係者の縦覧に供したと主張する固定資産課税台帳は、法が定める重要な要件を具備していないから適法な固定資産課税台帳を縦覧に供したということはできない。すなわち、法三八一条(三四三条)は、固定資産課税台帳の登録事項として、所有名義人死亡の場合の現に所有している者(三四三条二項後段)及び所有者所在不明の場合の所有者とみなされる者(同条四項)を登録すべきことを定めているが、被告は右規定に従つた固定資産課税台帳を作成していない。そのため被告作成の固定資産課税台帳には、別紙昭和五八年度土地課税台帳の該当欄に赤字(編注、ゴシツク部分)で注記したように、故人が納税義務者として登録されるなど実際の納税義務者が登録されていないという状態であり、とうてい適法な固定資産課税台帳とはいえないから、たとえこれを縦覧に供したとしても適法な縦覧ということはできない。

3  原告は昭和五八年六月一三日本件賦課決定につき異議申立をしたが、被告は同月二〇日右異議申立を棄却する旨の決定をし、同日付決定書をもつて原告に通知した。

4  よつて、原告は違法な本件賦課決定の取消を求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1及び3の事実は認める。

2  請求の原因2の事実のうち、原告が昭和五八年度固定資産課税台帳の縦覧を求めた際、原告所有物件の固定資産課税台帳についてはこれに応じたが、原告及び原告の妻所有物件以外の固定資産課税台帳については法二二条の秘密漏えいに関する罪に該当すること等を理由としてこれを拒否して縦覧を制限したことは認める。その余は争う。

三  被告の主張

1  固定資産課税台帳の縦覧について

(一) 被告は土地課税台帳及び家屋課税(補充)台帳を昭和五八年三月一日から同月二二日まで阿山町役場税務課において縦覧に供したが、原告が右固定資産課税台帳の縦覧を求めた際、原告及び原告の妻所有の固定資産に関する部分についてはこれに応じ、それ以外の部分についてはこれを拒否して縦覧を制限したが、この措置に違法はない。すなわち、法四一五条は市町村長は毎年一定の期間固定資産課税台帳をその指定する場所において関係者の縦覧に供しなければならないと規定しているが、他方、法二二条には地方税事務従事者が事務に関して知り得た秘密を漏えいした場合には処罰される旨、また地方公務員法三四条には地方公務員に守秘義務がある旨各規定されており、固定資産課税台帳に登録されている固定資産の価格(評価額)などは他人に知られると本人の不利益となることが予想されるものであり、法二二条及び地方公務員法三四条にいう秘密に該当すると認められるから、これら諸規定を総合して考えると、法四一五条にいう固定資産課税台帳を縦覧することができる「関係者」とは、納税義務者本人、納税義務者の同意または委任を受けた者、納税管理人等に限定される(これらに該当しない一般納税義務者は右関係者には含まれない)と解すべきである。したがつて、被告の右措置は適法かつ妥当というべきである。

なお、法四一五条一項にいう固定資産課税台帳とは、本来、個々の土地・家屋ごとに作成されたそれぞれの一葉ごとを指すものであり、それらを編てつした簿冊を意味するものではない。

(二) 仮に、原告主張のとおり法四一五条にいう関係者に一般の固定資産税納税義務者が含まれるとしても、以下に述べるとおり、被告は実質上原告及び原告の妻以外の者の所有物件についての固定資産課税台帳を原告に縦覧させたと同視すべき措置をとつているから、本件賦課決定に違法はない。

すなわち、法三八八条は「自治大臣は、固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続(以下、「固定資産評価基準」という)を定め、これを告示しなければならない」と定め、自治大臣は同条に基づき自治省告示第一五八号をもつて詳細に固定資産評価基準を定めており、被告は右自治省告示に定められた固定資産評価基準に従つて適法に固定資産の評価を実施しているが、土地については固定資産評価基準に従い状況類似地区を区分し、状況類似地区ごとに標準地を選定し、標準地の評価額を基準にして各個別の課税対象土地の評価額を決定しており、右基準とされた標準地を地図上に表示した標準地図面を作成するとともに、各標準地の評価額を一覧表にした標準地一覧表を作成している。昭和五八年三月一一日、原告が昭和五八年度固定資産課税台帳の縦覧を求めた際、応対した阿山町職員は、原告関係分の固定資産課税台帳を示し、縦覧は本人及び関係者所有のものに限られる旨説明したところ、原告がそれならば名寄帳を見せて欲しいと申し出たので、原告関係分の土地家屋名寄帳を示すとともに、原告所有土地の評価額決定の基準とされた標準地を地図上に表示した標準地図面及び標準地の評価額を記載した標準地一覧表を示し、「評価額の公正妥当の判断はこの標準地図面と標準地一覧表によつて行つてもらいたい。家屋についてどうしても他人の物件と比較したいのであれば同時期建築の同程度のものを指定されればそのものに限り見せるのでそれを指摘されたい」旨説明した。ところが、原告は「法四一五条に定められた縦覧はそのようなものではなく自由に誰のものでも見られるということだ。これでは縦覧とはいえない」などと言つて、右原告関係分の固定資産課税台帳、土地家屋名寄帳は見たものの、右標準地図面及び標準地一覧表を見ようともせず、また同時期建築の同程度の家屋の指定もしなかつた。以上のとおり、被告は原告に対し原告所有の固定資産の評価額(固定資産課税台帳登録価格)が公正妥当な額であるか否かを検討するに必要にして十分な資料を提供したのであるから、右資料の提供をもつて原告及び原告の妻以外の者の所有する物件についての固定資産課税台帳を原告に縦覧させたと同視すべきである。

2  実地調査について

法四〇八条は訓示規定と解すべきであり、実地調査が実施されていないからといつて、そのことが本件賦課決定の取消事由になることはない。ちなみに、被告は昭和五八年度において阿山町固定資産評価員に本件賦課決定の対象とされた土地及び家屋につき実地調査をさせた。

3  固定資産課税台帳の記載について

本件賦課決定は、賦課期日である昭和五八年一月一日現在において原告の所有に属した別紙物件目録(一)記載の土地及び同(二)記載の家屋に対し賦課したものであり、これらの土地及び家屋はすべて右賦課期日において原告名義で登記または登録されており、法三四三条二項後段、四項の問題が生ずる余地はない。原告の指摘する事例は、本件賦課決定とは関係のない物件に関するもので、仮にそこに何らかの問題があるとしても、本件賦課決定の取消事由となるものではない。なお、原告指摘の山本才蔵名義の阿山町千貝一八〇番一畑一九平方メートルは、第三者の所有であり、原告とは関係がないので、固定資産課税台帳上原告所有のものとして登録されていないのであり、当然本件賦課決定とは無関係である。

4  本件賦課決定

昭和五八年度固定資産課税台帳には、原告所有の別紙物件目録(一)記載の土地については乙第九号証のとおり登録され、同(二)記載の家屋については乙第一〇号証のとおり登録されていたところ、原告は右固定資産課税台帳に登録された事項につき昭和五八年三月一日から同年四月一日までの審査申出期間内に固定資産評価審査委員会に審査の申出をしなかつたから、本件賦課決定取消訴訟においては課税標準たる当該固定資産の価格の当不当を争うことは許されない(法四三四条二項)。そして、右のとおり確定された原告所有土地の課税標準額の合計額は三五四万一五三〇円、家屋のそれの合計額は五六五万六一五一円、それらの合計額は九一九万七六八一円となり、法二〇条の四の二第一項により一〇〇〇円未満を切り捨てた九一九万七〇〇〇円に対し一〇〇分の一・四の税率(法三五〇条、阿山町税条例(昭和四〇年一〇月二〇日条例第二〇号)六二条)を乗じると一二万八七五八円になるところ、法二〇条の四の二第三項により一〇円未満を切り捨てた一二万八七五〇円が年税額となるから、被告はこれを四期に分けて甲第一号証(納税通知書)により原告に納税通知したのである(同条例六七条一項、法二〇条の四の二第六項により一〇〇円未満の端数は最初の納期限に係る分割金額に合算)。以上のとおり、本件賦課決定は地方税法及び阿山町税条例に則つてなされた適法にして妥当なものであり、何らの取消事由も存しないものである。

第三証拠<省略>

理由

一  請求の原因1(本件賦課決定)及び同3(原告の異議の申立てとこれに対する被告の棄却決定)の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、本件賦課決定に原告主張の違法が存するか否かについて判断する。

1  固定資産課税台帳縦覧制限の違法主張について

(一)  原告が、固定資産課税台帳の縦覧期間内に所定の場所に赴き、被告に対し昭和五八年度固定資産課税台帳の縦覧を求めた際、被告は原告所有物件の固定資産課税台帳についてはこれに応じたが、原告及び原告の妻所有物件以外の固定資産課税台帳については法二二条所定の秘密漏えいに関する罪に該当すること等を理由としてこれを拒否し縦覧を制限したことは、当事者間に争いがない。

そして、原本の存在・成立に争いのない甲第六号証、第七号証、成立に争いのない乙第六号証、第七号証の一、二、第八号証の一ないし三、第九号証、第一〇号証、証人奥井勉及び同橋本正義の各証言並びに弁論の全趣旨を総合すると、被告は、法三八八条に基づき自治大臣が定め、告示した自治省告示第一五八号固定資産評価基準に従つて固定資産の評価を実施しているが、右評価に際し状況類似地区ごとに選定された標準地を地図上に表示した標準地図面及び各標準地の評価額を一覧表にした標準地一覧表を作成していること、原告が右のとおり昭和五八年度固定資産課税台帳の縦覧を求めた際、阿山町総務部税務課税政係長奥井勉及び同課課長橋本正義は、原告及び原告の妻所有物件以外の固定資産課税台帳を原告の縦覧に供することを拒否したけれども、右縦覧に代わる措置として、標準地図面及び標準地一覧表を示し、「原告所有土地の評価額についての適否の判断は標準地図面と標準地一覧表によつて行つてもらいたい。また原告所有家屋の評価額についての適否の判断のため他人所有家屋の固定資産課税台帳を見る必要があるのであれば、ほぼ同時期建築の同程度のものを指定されればそのものに限り見せるのでそれを指摘されたい」旨申出たが、原告は法四一五条所定の縦覧は固定資産課税台帳全部を自由に見ることができることである旨主張して右申出にとり合わず、標準地図面及び標準地一覧表を見ようともせず、また同時期建築同程度の家屋も指定しなかつたこと、原告は基準年度である昭和五七年にその所有にかかる固定資産税課税対象物件全部の固定資産課税台帳登録価格(評価額)に不服があるとして阿山町固定資産評価審査委員会に対し所定の期間内に審査の申出をしたところ、同委員会は審査対象物件のうち土地一筆の価格について五七一円の減額を認めたのみで、その余の土地二七筆と家屋全部については右審査申出を棄却したことを認めることができる。

(二)  固定資産税は当該固定資産について固定資産課税台帳に登録された価格(評価額)を課税標準とし、同台帳に登録された所有者を納税義務者として賦課するものであり、それに伴い、市町村は、固定資産の状況及び固定資産の課税標準である固定資産の価格を明らかにするため、固定資産課税台帳を備えなければならず(法三八〇条)、市町村長は、固定資産評価員の作成した評価調査に基づき、自治大臣の定める固定資産評価基準によつて、固定資産の価格等を毎年二月末日までに決定し(法四〇九条、四〇三条一項、四一〇条)、直ちに当該固定資産の価格等を固定資産課税台帳に登録しなければならないとされている(法四一一条一項。なお、土地及び家屋については、いわゆるみなし登録(価格の据置き)制度がとられており、第二年度及び第三年度においては原則として改めて価格の登録の手続をすることなく、基準年度の価格をもつて登録された価格とみなされる)。そして、市町村長は、毎年三月一日から同月二〇日までの間、固定資産課税台帳をその指定する場所において関係者の縦覧に供しなければならず(法四一五条)、固定資産税の納税者は固定資産の価格(評価額)等固定資産課税台帳に登録された事項(但し、土地・建物登記簿に登記された事項等を除く)について不服がある場合には、縦覧期間の初日からその末日一〇日までの間に、固定資産評価審査委員会に審査の申出をすることができ(法四三二条)、同委員会の決定に不服があるときは、その取消しの訴えを裁判所に提起することができるが(法四三四条一項)、固定資産の価格(評価額)等固定資産課税台帳に登録された事項で固定資産評価審査委員会に不服申立てができるものについては、納税者は右審査申出及び訴提起の手続によつてのみ争うことができ(法四三四条二項)、本訴の如き固定資産税の賦課についての不服申立てにおいては、右事項を不服の理由とすることができないものとされている(法四三二条三項)。

以上の如き固定資産税課税標準額の確定に関する法制度、及び法四一五条一項の規定において、一般に「思うままに自由に見ること」を意味する「縦覧」という文言が使用されている(法四三三条五項の「閲覧」とは明確に用語上区別されて使用されている)事実に照らして考えると、法四一五条が毎年一定期間に固定資産課税台帳を納税者の縦覧に供しなければならない旨規定した趣旨は、固定資産税の納税者となるべき者に市町村長が決定した固定資産の評価額(固定資産課税台帳に登録された価格)等を税賦課決定前に知らせ、その評価額等が他の納税者の場合等と比較して公平妥当な額であるか否かを検討し、その評価額等に不服のある場合には固定資産評価審査委員会に対し審査の申出をすることができる機会を与えることにあると解されるから、納税者が右規定によつて縦覧することのできる課税台帳の範囲は、自己の所有する固定資産に関する部分のみならず、自己の所有する固定資産の評価が適正妥当に行なわれているか否かを検討するために合理的に必要と認められる限度において他人所有の固定資産に関する部分をも含むと解するのが相当である。

法四一五条所定の縦覧が右のとおりと解される以上、被告のなした前記縦覧制限は同条に違反するといわざるをえない。しかし、結局のところ同条所定の縦覧制度の最終目的が固定資産課税台帳登録事項について固定資産評価審査委員会に対し審査の申出をする機会を納税者に与えることであると考えられること、及び同委員会に審査申出ができる同台帳登録事項の違法ないし瑕疵を理由として、その後になされる固定資産税の賦課決定処分の取消を求めることができない制度になつていることに鑑みると、自己所有物件の固定資産課税台帳の縦覧を拒否された場合等、違法な縦覧手続によつて納税者が同委員会に対する審査申立権を侵害された場合を除いては、縦覧手続の瑕疵を理由に固定資産税の賦課決定処分の取消を求めることはできないと解さざるをえない。これを本件についてみるに、原告は自己所有物件に関する固定資産課税台帳を縦覧してその登録価格(評価額)等を知ることができたのであるから、それだけでも自己所有物件の登録価格等について一応の検討を行い、固定資産評価審査委員会に対し審査の申出をすべきかどうかを決定することができたこと、さらに原告は、被告側が縦覧に代る措置として提供した、土地については標準地図面と標準地の価格を記載した標準地一覧表を見ることにより、家屋については同時期建築同程度の家屋を指定してその固定資産課税台帳を見ることにより、自己所有物件の登録価格等の適否について比較検討を行い、固定資産評価審査委員会に対し審査の申出をすべきかどうかを決定することができたこと、同委員会に対し審査申出をすれば、同委員会において必要な調査、口頭審理その他事実調査が行われ、その手続中において合理的に必要な範囲で当該固定資産の評価等の根拠、方法等が明示されることになつており(法四三〇条、四三三条)、原告は前年に審査手続を経験したことによりそのことは熟知していたこと等の諸事情に照らして考えると、原告は被告の右縦覧制限により同委員会に対する不服申立権を侵害されたと認めることはできないから、原告は右縦覧制限の違法を理由に本件賦課決定の取消を求めることはできないといわざるをえない。(なお、法四一七条は、縦覧に供した後に登録漏れ等が発見された場合には、直ちに固定資産課税台帳に登録された類似の固定資産価格と均衡を失しないように価格等を決定して固定資産課税台帳に登録し、その旨を当該納税義務者に通知しなければならない旨規定し、その通知を受けた納税義務者がそれに不服があるときは三〇日以内に固定資産評価審査委員会に審査の申出をすることができるが(法四三二条)、この場合には納税者は右決定価格等が他の納税者の場合と比較して公平妥当な額であるか否かを検討するために他人所有物件に関する固定資産課税台帳を縦覧することはできないけれども、三〇日以内に審査の申出をしないで右決定が確定すると、右決定の違法を理由として、その後になされる固定資産税の賦課決定処分の取消を求めることができなくなることに照して考えても、前記縦覧制限の違法を理由に本件賦課決定の取消を求めることができない旨の右結論が不合理でないことは明らかである。)

2  法四〇八条所定の実地調査不実施の違法主張について

法四〇八条は、「市町村長は、固定資産評価員又は固定資産評価補助員に当該市町村の固定資産の状況を毎年少なくとも一回実地に調査させなければならない。」と規定していることは原告指摘のとおりであるが、右規定は固定資産課税台帳に適正な価格等を登録するために実地調査を命じているものであるから、実地調査不実施の瑕疵は固定資産課税台帳登録事項に関する不服申立手続において主張することができる場合があるにしても、同台帳登録事項に関する瑕疵を固定資産税賦課についての不服申立てにおいて不服の理由とすることができない以上、右瑕疵を理由に本件賦課決定の取消を求めることはできないというべきである。

3  適法な固定資産課税台帳を縦覧に供しなかつた違法主張について

原告は、被告作成の固定資産課税台帳は法が定める重要な要件を具備していないから適法な固定資産課税台帳を縦覧に供したとはいえない旨主張するが、原告が請求の原因2(三)において不適法な固定資産課税台帳として指摘するものはすべて本件賦課決定の対象とされた固定資産とは無関係のものであるし、前記1(一)後段冒頭掲記の各証拠及び弁論の全趣旨を総合すると、本件賦課決定の対象とされた原告所有物件の固定資産課税台帳は適法に記載されており、何ら違法はないと認められるから、仮に固定資産課税台帳の原告指摘部分に原告主張の如き瑕疵があるとしても、原告はそれを理由に本件賦課決定の取消を求めることはできないというべきである。

三  本件賦課決定

前記二1(一)後段冒頭掲記の各証拠、成立に争いのない乙第一一号証の一ないし三及び弁論の全趣旨によると、昭和五八年度固定資産課税台帳には、原告所有の別紙物件目録(一)記載の土地については乙第九号証のとおり登録され、同(二)記載の家屋については乙第一〇号証のとおり登録されていたこと、原告は右固定資産課税台帳に登録された事項につき昭和五八年三月一日から同年四月一日までの審査申出期間内に固定資産評価審査委員会に審査の申出をしなかつたから、課税標準たる当該固定資産価格は右登録のとおり確定したこと、右確定された原告所有土地の課税標準額の合計額は三五四万一五三〇円、家屋のそれの合計額は五六五万六一五一円、それらの合計額は九一九万七六八一円となり、法二〇条の四の二第一項により一〇〇〇円未満を切り捨てた九一九万七〇〇〇円に対し一〇〇分の一・四の税率(法三五〇条、阿山町税条例(昭和四〇年一〇月二〇日条例第二〇号)六二条)を乗じると一二万八七五八円になるところ、法二〇条の四の二第三項により一〇円未満を切り捨てた一二万八七五〇円が年税額となるから、被告はこれを四期に分けて甲第一号証(納税通知書)により原告に納税通知(同条例六七条一項、法二〇条の四の二第六項により一〇〇円未満の端数は最初の納期限に係る分割金額に合算)したことを認めることができ、本件賦課決定に違法の点はないと認められる。

四  よつて、原告の本件請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 庵前重和 下澤悦夫 鬼頭清貴)

物件目録(一)、(二)<省略>

阿山町 昭和58年度 土地課税台帳

所在地

地目

地積

m2

54評価額

57評価額

58年度

課税標準額

所有者住所

所有者氏名

名寄番号

コード

本番

枝番

合併

2

176

2

80

80

19

00

ババ

アヤマチヨウ

960010100

2

177

11

11

1,702

00

171,495

188,644

188,644

セガイ

イナモリ ヨシクニ

102010400

2

178

1

11

11

489

00

42,448

46,692

46,692

バタ60年前

(大14.7.25死亡)

ナカニシ ギンジロウ

103040213

2

178

2

80

80

78

00

ババ

アヤマチヨウ

960010100

2

179

1

11

11

673

00

53,807

59,187

59,187

バタ60年前

(大14.7.25死亡)

ナカニシ ギンジロウ

103040213

2

179

2

80

80

129

00

ババ

アヤマチヨウ

960010100

2

180

11

11

49

00

4,361

4,797

4,797

バタ60年前

(大14.7.25死亡)

ナカニシ ギンジロウ

103040213

2

180

1

21

53

19

00

209

229

229

バタ原告の父 35年前

(昭和25年3月21日死亡)

ヤマモト サイゾウ

102010403

2

181

21

21

72

00

4,579

5,036

5,036

バタ

ハマジ ススム

103060311

2

182

21

21

109

00

6,870

7,557

7,557

セガイ

ヤマグチ マサシゲ

102050613

2

183

21

21

79

00

4,996

5,495

5,495

セガイ

カセ カネツグ

102010310

2

184

21

11

102

00

9,078

9,985

9,985

バタ

ヤマモト マサル

103070311

2

185

21

11

128

00

11,391

12,530

12,530

バタ

ヤマモト マサル

103070311

2

186

21

11

46

00

4,093

4,503

4,503

バタ

ヤマモト マサル

103070311

2

187

1

1

21

21

143

00

9,041

9,946

9,946

セガイ8年前

(昭和52年6月死亡)

カセ ジユウジロウ

102010112

2

187

1

2

21

79

24

00

セガイ8年前

(昭和52年6月死亡)

カセ ジユウジロウ

102010112

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